市場の少年

 
 

ぎらぎらした眼が どこまでもついてくる
なんだ なんだったんだ 頭のなかで ぐるぐると 記憶をたどる
あっ!あのときの 道端にころがったピーナツバターのビンを拾ってくれたあの親切な少年 しまった!そのときチップをあげるべきだった

こちらの気持ちを察知したのか少年が一歩近づいたような気がした
肉売り場を抜け 野菜通りも過ぎ雑貨屋が道いっぱいに商品をころがしていて
踏まないように気をつけながら歩いて、なにげなく斜めうしろに目をむけると
ボクをじっとみつめる少年の眼とぶつかる

オイ まだ来るのかよー それでも迷いながらボクは市場の喧騒の中を歩く
少年はあきらめない ポケットから10ペソをとりだして 少年の手に置く犯人を追いかけるような必死の眼が一瞬笑ったようにも見えたが「待たすなよ」と無言で抗議しているようにも感じた少年は10ペソを固くにぎって 逆方向へ鬼のような勢いで走り去った

ぼくは安心したのと後ろめたさで軽いめまいを感じた そしてそれはずっと忘れていた50年前 進駐軍のMPに「ガムガムチョコレート」と執拗にせがんだ少年時代の記憶と重なった

あのバギオの雑踏の中を
ボクをめがけてどこまでもついてきた少年のギラギラ眼が
ぼくの背中に刺青のように貼りついているみたいで思い出すと
今でもゾクッとする
 
Nabe